ARCC マネックス証券がエイリス・キャピタルの取扱停止。その理由とは

高配当好きの米国株投資家に人気があるBDC(Business Development Company)。その最大手がARCCです。このBDC、SBI証券に続きマネックス証券でも取り扱いを停止するとの発表がありました。新規購入はダメ。保有株の売却は可ということです。

いったい何がおきているのか調べてみました。この銘柄に何か大きなリスクがあることが発覚したということではありません。心配ご無用。あくまでも日本国内での手続きの問題です。

日本には、「投資信託及び投資法人に関する法律」という法律があります。

法律の目的は次のように定められています。

この法律は、投資信託又は投資法人を用いて投資者以外の者が投資者の資金を主として有価証券等に対する投資として集合して運用し、その成果を投資者に分配する制度を確立し、これらを用いた資金の運用が適正に行われることを確保するとともに、この制度に基づいて発行される各種の証券の購入者等の保護を図ることにより、投資者による有価証券等に対する投資を容易にし、もつて国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

そして、

(外国投資法人の届出)第二百二十条 に次の定めがあります。

外国投資法人又はその設立企画人に相当する者は、当該外国投資法人の発行する投資証券、新投資口予約権証券又は投資法人債券に類する証券(以下この条及び第二百二十三条において「外国投資証券」という。)の募集の取扱い等(その内容等を勘案し、投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)が行われる場合においては、あらかじめ、内閣府令で定めるところにより、当該外国投資法人に係る次に掲げる事項を内閣総理大臣に届け出なければならない。

マネックとSBIが取り扱わない理由は、この「届出」がされていないことです。となると日本でBDC取引を行うことは法律違反になるのでしょうか?

条文を読んでもよくわかりません。ARCCは、日本の法律の適用を受けるのか?内閣総理大臣への届け出が必要なのか?ということについては議論の余地がありそうです。

法律は具体例を細かく示していません。金融機関が実務上どうすればよいかわからない時は法律を所管する役所(金融庁)に見解を求めることが多いです。しかし金融機関は何でも役所に問い合わせるわけでもありません。顧問の弁護士事務所等と相談して判断するということもあります。

マネックス証券と楽天証券ではこれまでARCCを取り扱ってきましたから、この法律の適用は受けないと判断してきたと考えられます。

一方、金融庁のスタンスはどうでしょう。

その昔、大蔵省(いまの財務省)の課長さん(いわゆるキャリア官僚)が「法律は解りにくい方が解説本を書いて売ることができる」と言ってたのを聞いたことがあります。あながち冗談でもないのでしょう。法律はそれに連なる政省令やパブリックコメントなど、枝葉末節までつなげながら読まないと結論がわからないものがあります。読んだところで結局実務でどうすればいいのかわからないということが沢山あります。

そのため、役所は法令よりも解りやすいガイドライン等を作成して公表する場合もあります。しかし米国BDCに投資している人はそれほど多くないので、そうした対応もしていないのでしょう。

また、「届け出漏れ」が法律の目的である「証券の購入者等の保護」に反する事態であればより強力な是正措置を講じるはずですが、そうしていないということはBDCの取引が法の目的に反するとは考えていないのでしょう。

金融商品はどんどん多様化し法律の想定していないものがでてくることもあります。日本では取引されていなかったため法律の対象になるのかどうか定かでは無いということも起こりえます。

これまで取扱っていたマネックスがなぜ突然態度を変えたのか、きっかけはわかりませんが金融庁が「必要な届け出が出ていない」という判断をマネックスに伝える機会があったのではないかと想像できます。

他方、楽天証券は同じ指摘を受けながらも法令解釈について異議を唱え続けているのか、金融庁はマネックス個社にだけ何かの機会に意見を示したにすぎず、楽天には何も言っていないのかどうかは、わかりません。

しかし、大手ネット証券2社が取り扱いを停止したということは、いずれ楽天証券も同じ対応を迫られる可能性が高いと思います。

さて、ここで疑問に思うのは「だったら届け出すればいいじゃないか」ということです。

しかし法律をよく読むと届け出する主体は「外国投資法人又はその設立企画人に相当する者」と定められています。なので届け出は、日本のネット証券ではなく、ARCC自身が行わなければならないということになります。

ARCCの立場になれば、自社の株はNASDAQに上場されて自由に取引されていますから日本の役所に届け出までして、日本で販売してほしいとは思わないでしょう。日本での取り扱いが停止されても何も困りません。

ということで、ARCCを日本で買えるようになるためには、法律改正か金融庁が見解を変える必要があると思われます。これには学者を集めて審議会を開いたり、業界団体の意見を聞いたりして案を作る必要があるので、かなりの時間がかかります。

ちなみに、米国BDCを組み入れた次の投資信託の販売は問題になっていません。

中身は米国BDCですから市場でBDCを購入するのと本質的なリスクは同じですが日本の法令に準拠した手続きを終えています。それゆえ問題なく販売を継続できています。

しかし、これらの投資信託の信託報酬は高めになっています。組み入れ銘柄を増やして分散効果によるリスク低減を図ったり、為替ヘッジがついていたり付加価値もあるのですが、ある程度投資経験のある投資家にとってはBDCの個別銘柄株を市場で直接売買できた方が手数料も保有コストも安いので良いでしょう。

最近、日本の証券会社が扱えない銘柄(例えば、人気が急に高まっているARK Inovation ETF)の取引をするために、外資系証券に口座を開く人が急増していますが、金融庁には規制を緩和して日の丸ネット証券を応援してほしいものです。

以下はマネックス証券の発表文です。(マネックスの発表文の中では「金融庁長官への届出が必要な銘柄」と言っているので、上述の「内閣総理大臣への届け出」と符合しません。おそらく、関連の政省令や内閣府令で金融庁への届け出が必要と定めている事項もあるのでしょう。)

【米国株】一部銘柄の新規買付(取扱い)停止について配信日:2020年11月13日

当社の米国株取扱い銘柄の一部において、国内の取扱いに際しては運用会社もしくは発行体から金融庁長官に対しての届出が必要となる銘柄にも関わらず、届出がされていない状態で取扱可能と判断し、お客様のご注文をお受けしていることが発覚いたしましたのでお知らせいたします。

内容本事象の発覚を受け、急なご連絡となりますが、当社では、本日11月13日(金)より、これらの該当銘柄の新規買付を停止することとなりましたのでご連絡申し上げます。

なお、買付のご注文は同日夜に失効しております。また、買付の期間指定注文も同様に市場に発注されませんが、注文の取消は行いませんので、お手数ですがお客様ご自身で取消をお願いいたします。

当社の確認が不十分なことにより、このような対応となることをお詫び申し上げます。対象の銘柄は本文最下部の表をご覧ください。

現在保有されている該当銘柄の株式は継続して保有いただけます。該当銘柄の売却のご注文については、特段の制限等は行いませんので、これまで通りご注文が可能です。

いずれの銘柄も多くのお客様にお取引いただいている銘柄で、お客様のご要望に最大限応えていきたいという姿勢に変わりはないものの、国内事業者が順守すべき制度上ご注文をお受けすることができない銘柄であることから、当社としては、お客様の資産保護ならびに法令順守を最優先とすべく、速やかに新規買付の停止を行う必要があると判断いたしました。

この度の急な決定および対応につきましては、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。なお、ご不明点等がございましたら、下記当社コールセンターまでご連絡ください。また、本件に関するご要望やご意見等がございましたら、以下のフォームよりお客様のご意見・ご要望をお寄せください。

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