廃業した実家の固定資産税の高さにビックリ!
個人事業を営んでいた実家の固定資産税の話です。
事業主の父は10年以上前に亡くなり、今では母が無駄に広い住宅に住み、古びた店舗・倉庫を物置代わりにしているだけ。ところが母は父の存命中と変わらぬ金額の税金を払い続けていました。
固定資産税は申告税ではなく、賦課税。役所が税額を一方的に決めて通知してきます。お上に間違いは無いと信じ、通知に従って10年以上税金を払ってきました。
しかし、事業もしていないのに数十万円の税金は高すぎる。どうにも腑に落ちず、あらためて固定資産税はどういう税金なのか確認しました。こちらの動画が解りやすいです。
まさに動画で解説されている「市区町村の課税ミス、廃業して引退後は自宅に」という事例に該当していました。本来適用できる「住宅用地の特例」が適用されていなかったのです。また、取り壊した建物もまだ存続していることになっていました。
😱
住宅用地の特例とは
固定資産税は地方税なので国税庁ではなく総務省の指導のもとで市町村が管理しています。ネットでググると市町村ごとに情報が出てきます。ここでは、総務省が開示している資料「固定資産税制度について平成28年8月総務省自治税務局固定資産税課」の抜粋を載せておきます。役所は内部の研究会等で使う目的や議会への説明用には、難解な制度を上手に整理した資料を作っている場合が多いです。
固定資産税制度について-削除済みページやはり、住宅用地特例の適用有無は税額に大きく影響しますね。自分の実家にもこの特例を適用すると税額は随分下がりそうです。
一般住宅用地は家屋の床面積の10倍まで課税標準額が1/3になります。家屋の床面積が100平米(30.25坪)の場合1,000平米(302.5坪)までの部分が1/3になります。
また、 蒲郡市 のサイトにはこんな説明もありました。
事業用から住宅用として利用方法を変更した家屋はありませんか?
廃業等に伴い工場・店舗等の事業用の家屋を住宅用(離れ、物置等)として利用していると、土地の固定資産税が軽減される場合があります。下記の2つに該当する固定資産をお持ちの方は市役所税務課までご連絡をお願いします。
1.家屋内の事業用物品(営業当時の設備類等)を撤去し、住宅用として利用している
2.該当の家屋と同一敷地内に居宅があり、効用上一体として利用している
実際に家屋の利用状況を調査の上、土地の固定資産税を見直します。確認用の資料として調査の際に下記の書類の提出にご協力ください。
蒲郡市住宅用付属家の認定について
住宅用地特例の適用と申告義務の関係
ところで、住宅用地の特例の適用には納税者による申告が必要なのでしょうか?この点にてついて香川大学法学部教授三野靖氏の論文「固定資産税の誤りとその対応」では次の通り結論しています。
住宅用地特例は、「専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの敷地の用に供されている土地で政令で定めるもの」(住宅用地)に対して課する固定資産税の課税標準は、「当該住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の三分の一の額とする。」(地方税法349条の3の2第1項)と規定している。
一方、不動産取得税の課税標準の特例(12,000千円の控除)については、「当該住宅の取得者から、当該道府県の条例で定めるところにより、当該住宅の取得につきこれらの規定の適用があるべき旨の申告がなされた場合に限り適用するものとする。」(73条の14第4項)と規定されている。
このことから、固定資産税の住宅用地特例の適用は、納税者の申告が要件とはなっていないと解されている
固定資産税の誤りとその対応
一方、「市町村長は、住宅用地の所有者に、当該市町村の条例の定めるところによって、当該年度に係る賦課期日現在における当該住宅用地について、その所在及び面積、その上に存する家屋の床面積及び用途、その上に存する住居の数その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる。」(384条1項)との規定もあるが、住宅用地の数が非常に多く、課税当局の把握に困難を伴うため、住宅用地の申告は、課税当局の参考とするためのものであると解されている
固定資産税の誤りとその対応
つまり、各市町村が条例で申告制度を設けていたとしても、申告なして特例を適用してもらうことができるということでした。
役所は課税に必要な情報をどのように取得しているの?
そもそも役所はどのようにして土地・建物の現況等、徴税に必要な情報を把握しているのでしょう?この雑誌記事や市町村のサイトを参考に調べてみました。
納税者
売買・相続・贈与等で所有者が変更した場合は、法務局から市町村に通知が送られ新たな所有者を把握する。
家屋の現況
市町村は毎年1月1日に航空写真を撮影するなどし、現況が変化していないかチェックしている。でも、これでは気づかない家屋の増改築や取り壊しも多いようです。
地目
地目は、田、畑(併せて農地といいます。)、宅地、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野及び雑種地をいいます。固定資産税の評価上の地目は、登記簿上の地目にかかわりなく、その年の1月1日(賦課期日)現在の現況の地目によります
税務署に確認したところ、税務署に届けた「廃業届」は市町村には連携されていないようでした。また、税務署は故人の廃業届提出有無の確認や廃業の証明を事後的に発行することには応じていないとのことでした。なので、税務署に届け出た「廃業」に基づいて「現況」を見直したり、住宅用地の特例を積極的に適用してくれることは無いのでしょう。
結局のところ市町村がすべての固定資産について正確な情報を把握して適正な評価をすることには無理があるように感じました。それなのに、申告納税ではなく賦課税になっているのが問題なのではないでしょうか。
また、特例の適用要件についても全国一律ではなく、市町村によってバラつきがあるようです。とにかく、固定資産税が高いと感じたら一度役所に相談してみるのが良いでしょう。
過徴収分の返還について
過徴収分の返還については法的に次の3つの対応があります。
- 地方税法に基づく返還 上限5年分(地方税法13条の3 還付金に係る地方団体に対する請求権は、その請求をすることができる日から五年を経過したときは、時効により消滅する)
- 国家賠償法に基づく返還 上限20年分 (自治体の過失を納税者が立証する必要がある。民法724条が適用され、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ってから3年、不法行為時から20年が経過すると、消滅時効が成立)
- 自治体の返還要綱に基づく返還 上限20年分 (適用要件は区々)
法的な論点についてはやや専門的になりますが、次の資料が参考になります。
自治体の要綱に基づく返還が納税者にとっては一番お得感がありますが、要綱の法的位置づけについて法学者の間では議論があります。
過誤納金の返還は、要綱に基づき行っている自治体が多いが、返還の手続については、自治体から対象者に通知するもの、申請を受けて決定通知をするものがある。
固定資産税の誤りとその対応
そして、返還金の法的根拠は、地方自治法232条の2に基づく寄付と位置付けているところが多い。この場合、要綱の位置付け、返還金の権利性が問題になる
この論点については、ケースごとに多くの判例があり、要綱の適用要件については標準化されていないのが実情、結局のところ解決の仕方は事例に応じて区々です。
どうやら、固定資産税の適正性を徹底究明するのは「パンドラの箱」を開けるようなもで、相当数の誤った課税が潜在しているものと推測されます。また、解決方法についても全国一律の対応にはなっていないと言えます。
間違いを見つけたときはどうすればいいのか
「納税通知書」をよく見ると小さな字でいろいろな説明が書いてあります。この中に「不服申し立て」「取消訴訟」についての記載があります。
これは行政が国民の権利を侵害した場合に国民の権利を守るために設けられた次の法律に基づく救済制度に該当します。
- 行政不服審査(一般法は行政不服審査法、税に関しては税法に不服審査の定めがある)
- 行政事件訴訟法に基づく取消訴訟
「不服申し立て」は行政機関が審理・判断します。「取消訴訟」は裁判所が審理判断します。いずれも申し出の期間が決まっているうえ手続きも面倒。訴訟となると判決がでるまで相当の期間がかかりますし、訴訟手続きを弁護士に依頼すれば費用も掛かります。
しかし必ずしも上述の法制度に則った対応でしか解決が図れないわけではありません。不審に思ったら申し出期間に拘らず、なるべく早く役所の窓口に相談することをお勧めします。
役所の担当の知見レベルにばらつきがあり、レベルの低い担当者にあたると良い対応をしてくれないかもしれませんが、この場合は上席者等に代わってもらう方が良いかもしれません。
また、自分にもある程度の法的知識があると相手から適切な対応を引き出すのに役に立ちます。実は自分は昨年行政書士試験の受験勉強をしたのでその知識が役に立ちました。(試験は落第しましたけど・・)
役所との交渉経緯
まずは、固定資産税の担当課に電話して「固定資産税が高いのでは?」と照会してみました。すると、役所の把握している情報と、当方が口頭で説明した現況を比較し、あっさり「間違っていました」と認めてくれました。差額や返還については計算に時間がかかるから。。。ということでした。
返還期間は、「税法では最大5年です」というだけでした。どうやら5年で済ませたいようです。しかし父が亡くなって13回忌もとうに終わりました。5年で済まされるのは釈然としません。
実家の所在市にも「固定資産税等過誤納付金返還金支払実施要綱」が条例として制定されており、最大20年の返還が可能であることが確認できました。しかし当方から指摘するまで職員からはこれについての説明はありませんでした。
国家賠償法に基づく請求となると、役所にとっては厄介なので避けたいようでした。もちろん、自分にとっても面倒です。
市役所の担当に、要綱に基づけば20年分の返還が可能ではないのかと指摘した時、はじめはアレコレ言っていたのですが、途中で「その住所地の担当に引き継ぎます」ということになり、後日電話連絡してもらうことになりました。
結果、あっさりと20年分返還しますということになり、手続きの説明がありました。役所と当方で授受した書類は次の通りです。
- 提出書類
- 過誤納返還金申請書
- 住宅用地の比率割合修正分
- 固定資産税の更正により、国民健康保険税が減額になる分
- 過誤納返還金請求書(支出調書):振込口座の指定用
- 相続人代表者選任届:亡父の過払分を代表して受け取る者の指定用
- 過誤納返還金申請書
- 受領書類
- 固定資産の価格 、及び固定資産税・都市計画税 の更正、決定通知書:5年分
- 過誤納返還金支払決 定通知書:固定資産税15年分と国民健康保険税分
返還金の総額は約250万円になりました。交渉は電話で5回ほど会話し、書類の記入方法の説明の際に1回面談しました。交渉期間は3週間ほど。あまり拗れず順調に返還していただきました。
評価方の細かい点は良くわからないこともあり裁量部分もある感じでしたが、とにかく20年分返還するという誠意を見せてくれたので、あまりゴネずに決着することにしました。
高い固定資産税が気になった方はこの機会に再確認されることをお勧めします。
固定資産評価取扱要領
さらに深堀すると、そもそも法律でも曖昧な評価方法については各市町村が「評価事務取扱要領」等の名称で実務指針を定めている場合があることがわかりました。しかし、この要領は全国一律でもなく、すべての市町村が開示しているものではありません。
こちらは、箕面市で定めている要領の総則目的からの引用です。
土地の評価については、地方税法(以下「法」という。)第403条の規定により、法第388条第1項の固定資産評価基準(昭和38年12月25日自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)の定めるところによって評価しなければならない旨規定されている。本要領は評価基準に明示されていない細部の取扱いを定め、評価の方法、手続きを統一し、適正かつ公平な評価の確保に資することを目的とする。
令和3年基準年度 固定資産評価取扱要領(土地) 箕面市役所総務部固定資産税室
具体的には高低差のある土地や、水路が隣接している場合の評価減等の細かな補正方法が載っています。素人がここまで調べて適正な評価が行われているかどうかを検証するのは難しいです。逆に言うと役所もすべての固定資産評価で厳密な運用を行うのは極めて困難でしょう。
自分は、評価減になりうる事項について適正に取り扱われているか確認し、適正との回答を得ましたが、その真偽は検証しようがありませんでした。なので、それ以上の追及はやめました。
一般財団法人資産評価システム研究センターのレポート
全国の地方自治体等が会員になっている「資産評価システム研究センター」が「土地評価事務取扱要領の整備状況と関連する判例解説」というレポートを公開しています。
これを見ると事務ルールを明確に定めていない自治体が相当数あることがわかります。また、資産評価に関する訴訟リスクの回避のために次の事項が推奨されています。これも逆に言うと、基本的なことができていない市町村がたくさんあるということですね。
20_1mia_shiryou1.固定資産評価基準の理解
2.固定資産評価基準が定めた手順の適正な実行
3.同一自治体の類似案件における公平性の確保
4.事務取扱要領の整備(所要の補正などについて近隣自治体と連携)
https://www.recpas.or.jp/new/jigyo/report_web/kenkyu_giji/20th/20_1mia_shiryou.pdf
なぜか「週刊エコノミスト」がこの問題に関する図書の発行に熱心なようです。参考になると思います。固定資産税の評価をつつくのはパンドラの箱を空けるようなものらしいです。評価方法が複雑すぎて現場の担当者の手に負えなくなっているようでした。
結局、自分の権利は自分で守るしかありません。
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