早期退職を決断するとき、「65歳以降、毎月いくら入ってくるのか」を把握できている人は意外と少ない。
漠然と「年金がある」「退職金がある」とわかっていても、それが実際に月いくらになるのか、いつから何が始まるのか、配偶者がいる場合はどう変わるのか──整理してみると、思ったより複雑だ。
今回は私自身の構成をベースに、65歳以降の収入の全体像を整理する。
年金は「三階建て」という構造を知っておく
日本の年金制度はよく「三階建て」と表現される。
- 一階:老齢基礎年金(国民年金)
- 二階:老齢厚生年金(会社員・公務員が対象)
- 三階:企業年金(会社による)
サラリーマンとして長年勤めた人は、この三層が重なって受給できる。私の場合、そこに配当収入という柱が加わり、実質的には「四本柱」の構成になっている。
65歳以降の収入構成
私の場合、65歳からの収入はおおよそ次のような構成になる。
| 収入項目 | 月額(目安) |
|---|---|
| 老齢基礎年金 | 約7万円 |
| 老齢厚生年金 | 約16万円 |
| 加給年金(配偶者65歳未満の間) | 約3万円 |
| 企業年金(年金選択・85歳まで) | 約12万円 |
| 配当収入(税引後) | 約9〜10万円 |
| 合計(加給年金あり期) | 約47〜48万円 |
公的年金の二本だけで月23万円ほど。そこに企業年金と配当が加わると、月45万円前後の収入になる。
支出(家賃・生活費・税社保)は月43〜44万円の見込みなので、フェーズによっては年間で数万円〜数十万円の黒字になる計算だ。
ライフステージで変わる収支:二つのフェーズ
65歳以降は、配偶者の年齢によって収支の構造が変わる。妻は2歳年下なので、私が65歳のとき妻はまだ63歳。年金を受給し始めるのは私が67歳になってからだ。
フェーズ1:本人65歳〜配偶者65歳まで(約2年間)
妻がまだ年金受給前のこの期間を補ってくれるのが加給年金(月約3万円)だ。
加給年金とは、厚生年金を一定以上納めた人が65歳になったとき、配偶者が65歳未満であれば加算される年金のこと。配偶者の年金が始まるまでの「つなぎ」として機能する。
この期間は支出を上回る収入が確保でき、家計は黒字で推移する見込みだ。加給年金がなければかなり厳しくなっていた。
フェーズ2:本人67歳以降・配偶者65歳以降(安定期)
妻が65歳になると加給年金が終了する。代わりに、配偶者自身の年金に振替加算が上乗せされる。これは加給年金の代替として設けられた制度だが、金額はぐっと小さい。
収入はその分減り、年間収支はほぼ均衡ラインに入る。
ここで活用できるのが、前回(第6回)で触れた一時金残高だ。65歳時点で約1,300万円強が手元に残る見込みで、その一部を高配当資産に振り向ければ配当収入が増え、収支を黒字側に引き戻せる。
加給年金と振替加算──意外と見落とされる「つなぎ」の制度
退職前の情報収集では、老齢基礎・厚生年金ばかりが話題になりがちだ。しかし加給年金は要件を満たせばそれなりの額になる。私の場合、約2年間で総額70〜80万円相当のプラスになる。
受給の条件は大まかに言うと「厚生年金の加入期間が20年以上」「生計を維持している65歳未満の配偶者がいる」の二点。要件を確認しておく価値は十分ある。
一点、見落としがちな注意事項がある。加給年金は自動的に支給されるわけではなく、申請が必要だ。老齢厚生年金の請求手続きと合わせて年金事務所に届け出る形になるが、請求しないと受け取れないので要注意。65歳到達が近づいたら早めに年金事務所で確認しておくことをお勧めする。
本人が先に亡くなった場合の配偶者の収入
縁起でもない話だが、継承計画は考えておいた方がいい。
私が先に逝った場合、妻の収入はおおよそ次のような構成になる。
| 収入項目 | 月額(目安) |
|---|---|
| 遺族厚生年金 | 約11〜12万円 |
| 配偶者自身の老齢基礎年金+振替加算 | 約7万円 |
| 資産からの配当収入 | 約9〜10万円 |
| 合計 | 約27〜29万円 |
一人暮らしになれば支出も減る。投資元本には手をつけていないから、介護や医療への備えとして丸ごと残る。運用で元本を増やしておくのも課題になるが、過度なリスクをとらない慎重さも必要だ。
企業年金(年金選択)の10年保証も、75歳未満で亡くなった場合には残余期間分を妻が受け取れる。これがあることで、早期死亡リスクに対してもある程度対処できる。
「65歳以降は年金生活」の実像
「年金だけで暮らせるのか」という問いへの答えは人によって違う。
私の場合は、三階建て年金+企業年金+配当という構成があるから成立する設計だ。公的年金だけでは月23万円ほどにしかならないし、そこから税・社会保険が引かれればさらに減る。
企業年金の有無、配当収入の有無、住居費の水準──これらの差が、退職後の家計を大きく左右する。
「老後2,000万円問題」で一時話題になったが、問題の本質は「いくら貯めるか」より「毎月の収入をどう設計するか」だと私は思っている。収入の柱が何本あって、それぞれいつ始まり、いくら入ってくるか。そこを整理するだけで、漠然とした不安はかなり輪郭を持ってくる。
このシリーズで7回にわたって書いてきたことも、突き詰めればそこに尽きる。早期退職を考えている方の参考に、少しでもなれば幸いだ。
<このシリーズで扱うテーマ>
第1回:定年前に会社を辞めた。──その決断までの話
第2回:退職金の税金──ほぼ無税にできた理由
第3回:健康保険の選び方──任意継続 vs 国保、どちらが安いか
第4回:失業保険と早期退職──就職するつもりがなくても、もらえる。
第5回:企業年金──年金か一時金か、損益分岐点の計算
第6回:65歳までの家計設計──空白期間をどう乗り越えるか
第7回:65歳以降の年金三階建て──収入の全体像を把握する


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