「老後のために不動産投資を」という声が絶えない。インフレが進み不動産価格が上昇するなかで、サラリーマン層が実物不動産投資に関心を深めているように見える。
しかし自分は実物不動産の所有は避けてきた。住宅は賃貸を続け、60歳を超えた今はNISAを活用してJリートETF(証券コード1343)の分配金を家賃の原資に充てるという戦略をとっている。
なお、流行りの不動産クラウドファンディングとリートは似て非なるものだ。クラファンは途中解約が原則できず資金が拘束され、情報開示も運営会社次第で、破綻リスクも小さくない。リートは取引所に上場しいつでも売買でき、情報開示も上場企業と同等の基準が課されている。両者は流動性・透明性・リスク管理の点で根本的に異なる。
実物不動産投資が成立する条件とその限界
実物不動産投資が株式投資と根本的に異なるのは、融資によるレバレッジを前提として組み込める点だ。自宅取得なら住宅ローン、投資用物件なら不動産投資ローンを活用することで、自己資金を大きく上回る資産を取得できる。理屈の上では、自己資金だけで運用する株式投資より高いリターンを狙える。しかしレバレッジは収益を拡大すると同時にリスクも拡大する。問題はそのリスクが十分に認識されていないことだ。
実物不動産投資が成立するケースは理論上存在する。相続などで市場価格を大きく下回る簿価で取得できた場合、ローンをほとんど使わない自己資金投資の場合、需要が安定したエリアで表面利回り8〜10%以上を確保できる場合──この三つが主な条件だ。
ここで考えてほしいのは、三菱地所や三井不動産が高収益を維持できる理由だ。明治期にさかのぼる財閥の土地を現在の市場価格とはかけ離れた簿価で保有しているからであり、今から市場価格で物件を買って同じ収益率を出すことは不可能だ。サラリーマンとはスタート地点から違う。
実物不動産投資にかかる全コストを正直に計算すると、管理費・修繕・税金等で約3.5%、取得・売却・リフォームコストで約0.7%、物件の経年減価で約2.5〜3.0%、合計で年率6.5〜7.0%が表面利回りから消える。つまり表面利回り7%超で初めてトントン、フルローンなら金利コストも加わり10%超でようやくプラスになる。首都圏の実際の利回りは新築で3〜4%、中古でも5〜7%程度であり、この水準には届かない。
もう一つ、出口戦略として購入時より高値で売り抜けられるなら話は別だ。売却益でローンを回収し利益を確定できれば、インカムの低さを補える。実際、2020年以降に都心・湾岸エリアのマンションを保有していた人の中にはこの恩恵を受けた人もいる。ただしそれは結果論であり、どの物件がいつ値上がりするかを事前に確実に見通すことは誰にもできない。首都圏郊外の一般的な物件では値上がりが限定的だったことは前の記事で確認した通りだ。出口戦略は確実に実現できる場合にのみ成立する戦略であり、不確かな値上がり期待に賭けることはギャンブルと本質的に変わらない。
さらに根本的な問題がある。実物不動産投資には自然な終わり方がないということだ。30年後には建て替え問題が浮上するが、区分マンションでは所有者の5分の4以上の合意が必要で現実にはほぼ不可能だ。売れない・建て替えられない・解体もできない、しかし税金と管理費は払い続けるという袋小路に入り込むリスクがある。一棟物であれば意思決定は自分でできるが、建て替えには数千万〜数億円の費用がかかり、再びローンを組めば投資サイクルがゼロにリセットされる。建て替えずに解体すれば更地が残るだけで、その土地が売れるかどうかは立地次第だ。相続すれば子や孫への重荷になり、複数の相続人がいれば共有名義で身動きが取れなくなる。
これがエンドレスゲームの本質だ。大手不動産会社はプロの経営陣が法人として世代を超えて運営し、簿価ゼロに近い土地という原価優位がある。個人がこれを模倣しようとすること自体に無理がある。
JリートETF(1343)という選択
リートはプロの運用会社が複数の収益不動産を管理し賃料収入を投資家に分配する仕組みだ。自分が選んでいる東証REIT指数連動ETF(1343)の利点は三つ──全銘柄への分散、市場でいつでも売買できる流動性、決算情報が公開されている透明性だ。
ただしリスクも正直に述べる。市場規模が小さく金利変動の影響を受けやすい。デベロッパー系スポンサーによる質の低い物件の組み込みが過去に指摘されている。上場価格はNAVに対してプレミアムにもディスカウントにもなり、金利上昇局面では価格が軟化しやすい。
それでも1343は、為替リスクのない円建て上場商品として2001年以来20年以上かけて定着・成長してきた実績がある。分配金は過去10年でほぼ一貫して増加し、2016年の54.6円から2025年には87.6円と約1.6倍になった。直近の分配金利回りは4%台が続いている。
| 年 | 年末株価 | 年間分配金 | 分配金利回り |
|---|---|---|---|
| 2025 | 2,181円 | 87.6円 | 4.90% |
| 2024 | 1,790円 | 82.9円 | 4.25% |
| 2023 | 1,951円 | 75.0円 | 3.68% |
| 2022 | 2,036円 | 71.8円 | 3.23% |
| 2021 | 2,224円 | 70.5円 | 3.69% |
| 2020 | 1,909円 | 73.2円 | 3.19% |
| 2016〜2019平均 | — | 62.6円 | 3.35% |
※2026年4月現在の利回りは約4.5%
金利が上昇したらどうするか
現在日本は利上げ局面にある。「金利が上がれば国債や定期預金の方がいいのでは」という疑問は自然だ。
バブル前夜の頃、長期信用銀行や信託銀行の5年もの商品は6〜7%台の利回りがあった。しかし当時は物価上昇率も高く、実質リターンで見ると現在と劇的には変わらなかった。「高金利=有利」は額面通りには成立しない。
整理すると、緩やかな金利上昇の現局面ではリートに価格下落圧力がかかるが、定期預金との利回り差は依然大きく、長期保有前提なら焦って売る局面ではない。長期金利が3〜4%台に達する本格的な高金利局面では安全資産との比較が問われるが、そのような環境は不動産賃料も上昇しリートの分配金増加も期待できるため単純にリートが不利とは言えない。スタグフレーションになれば安全資産への退避が合理的だが、現時点でその可能性は低い。
タイミングを見計らって乗り換えようとしても、気づいた時には価格はすでに動いている。むしろ分配金が家賃をカバーし続けているかどうかを判断軸に置き、安全資産の利回りがリートと本格的に拮抗する水準に達した時点でポートフォリオを見直す、という構えが現実的だと考えている。
家賃ヘッジとNISAの効果
不動産市況が上向けば賃料も上昇し、リートの分配金も増える傾向がある。完全な連動ではないが、「持ち家を買って不動産値上がりに乗る」のと本質的に近い狙いを、はるかに少ないリスクで実現できる。
NISAの成長投資枠でETFを保有すれば分配金が非課税になる。利回り4%なら課税口座では手取り約3.2%、NISAなら4%がそのまま残る。長期・大きな元本ほどこの差は無視できない。
自分の場合、1343を含むJリートETFと高配当株の分配金・配当金を組み合わせて家賃相当のインカムをまかなう設計にしている。管理の手間も空室リスクも多額のローンも抱えず、不動産市況の恩恵を受け取ることは十分可能だ。
本記事はあくまで筆者個人の運用経験と考え方を記したものです。特定銘柄への投資を推奨するものではなく、投資の判断はご自身の責任において行ってください。
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