早期退職の損得勘定 第1回

定年前に会社を辞めた。──その決断までの話


還暦を過ぎても、給料は悪くなかった。 大手金融機関に長年勤め、出向や転籍もなく本体に残れた。 仕事も、正直きつくはなかった。 定年まで勤め続ける障害は、ほとんどなかった。

日本の大企業には、こういう人間がそこそこいると思う。 60歳を過ぎてから、会社の中で自分がどういう存在なのかを うすうす感じながら働いている人間が。

会社から早期退職の案内が来たのは、そんな時期だった。 リストラではなく、一定年齢以上の全員を対象にした「自由な選択」を促すものだ。 とはいえ、60歳から65歳の間をどう過ごさせるか、会社も本人も正直なところ模索している。 どうしても「中途半端な存在」という感覚からは逃れられない。


「辞めようか」と思ったとき、まず数字を計算した。 30年弱、投資をやってきた人間の習性だ。

まず年金。60歳以降も厚生年金を払い続けると年金額は増えるが、 増え方には「節目」がある。 加入期間が480ヶ月(40年)を超えると、増え方が鈍化するのだ。 自分の場合、その節目はすでに通過していた。 これ以上働いても、年金の上積みは限界に近い。 厚生年金は月20万円を超える見込みで、企業年金も別途ある。 「年金の積み増しのために働き続ける理由」は、数字の上では薄かった。

次に退職金。定年まで働き続けた場合と早期退職した場合を比較すると、 退職金の税負担・早期退職金の上積み・給与への課税などを合算したとき、 早期退職で「失う手取り」は1,000万円を切る程度だった。

その金額で、65歳までの数年間を自由な時間として買えるなら── 健康なうちの時間の値段として、惜しい金額ではない気がした。

手持ちの金融資産で、空白期間は十分に賄える。 数字が揃ったとき、答えは出ていた。


ただ、ここまで整理するのに、それなりに時間がかかった。

投資の話ならわかる。株クラ界隈にも長くいて、お金の知識には自信があるつもりだった。 でも、退職にまつわるお金の話は少し違う。 税金・社会保険・年金・企業年金……論点は多いのに、 「自分の属性では何が論点になるのか」を把握すること自体が難しい。

YouTubeには中高年向けの解説動画が山ほどある。 丁寧なものも多いし、自分もずいぶん参考にした。 ただ、動画は流れていく。 自分の数字を当てはめて、立ち止まって考えるには、やはり文字のほうがいい。 ブログという古くさいメディアが、こういうときは意外と向いていると思っている。

このシリーズでは、自分が実際に調べて判断していったプロセスを、順番に書いていく。


<このシリーズで扱うテーマ>

  • 第2回:退職金の税金──ほぼ無税にできた理由
  • 第3回:健康保険の選び方──任意継続 vs 国保、どちらが安いか
  • 第4回:失業保険と早期退職──使える?使えない?
  • 第5回:企業年金──年金か一時金か、損益分岐点の計算
  • 第6回:65歳までの家計設計──空白期間をどう乗り越えるか
  • 第7回:65歳以降の年金三階建て──収入の全体像を把握する

教科書的な解説より、「自分と近い属性の人間が、何を論点にしたか」を伝えることを意識したい。 定年や早期退職を考えている人に、地図の一枚くらいにはなれれば十分だ。

→ 第2回「退職金の税金」へ

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