会社を辞めると、収入がいきなり消える。
当たり前のことだが、実際に退職届を出して、最終出社日を迎えてみると、その「当たり前」がリアルに迫ってくる。
わたしの場合、退職は62歳。公的年金の受給開始は65歳(満額受給のため前倒しせず)。つまり約3年間、年金のない空白期間がある。
この3年間をどう設計するか。今回はその話だ。
収入の柱は「配当」──その背景から話しておく
退職後の収入で最初に出てくる「配当収入・月9万円」について、唐突に感じる方もいるかもしれないので少し説明しておく。
投資歴は30年近くになる。長く続けてきた結果として、それなりの規模の運用資産が積み上がった。
ここ数年は追い風が吹いた。円安の進行、米株指数の上昇、ハイテクブームの波──この流れにうまく乗れて、資産は想定以上のペースで増えた。正直なところ、運もあった。
ただ、退職が近づくにつれて方針を変えた。円安はそろそろピークに近いと判断したこと、年齢的にも値動きを追いかける運用から距離を置きたくなったこと。そこでここ数年は、NISA成長投資枠を活用しながら東証REIT指数連動ETFや高配当ETFを中心に買い増し、JTなど一部個別株も加えて「円ベースの配当が安定して入ってくる仕組み」を意識的に整えてきた。その結果が、税引後で年間110〜120万円、月換算で約9〜10万円という水準だ。
もっとも、金融機関に勤めていたので個別株の売買には長年制約があった。インサイダー取引規制が法令レベルで整備されたあたりから運用の自由度がぐっと下がり、ETF中心の運用に切り替えたのもそのころだ。退職後はその制約がなくなる。それはそれで、ちょっと楽しみにしている。
収入と支出を、まず並べてみる
退職直後の家計はシンプルに整理できる。
| 期間 | 収入(月・手取) | 主な収入源 |
|---|---|---|
| 退職直後〜3ヶ月(2026年7〜9月) | 約9万円 | 配当のみ |
| 失業保険受給期(2026年10月〜2027年3月) | 約31万円 | 配当+失業保険 |
| その後〜65歳(2027年4月〜2028年10月) | 約9万円 | 配当のみ |
支出はこうだ。
- 生活費:約22万円
- 家賃:約16万円(賃貸マンション)
- 公租公課(健康保険・住民税など):約5万円
- 合計:月43万円前後
家賃が高いと思われるかもしれない。ただわたしは、住宅購入よりも賃貸継続・金融資産形成を優先するライフスタイルをずっと選んできた。頭金や住宅ローンに回す資金を投資に向け続けた結果、子供の学費にも老後資金にも、大きく悩むことがなかった。あの選択は間違っていなかったと今でも思っている。住まいの戦略については改めて別の記事で整理するつもりだ。
退職直後は月30万円超の赤字。失業保険が入る時期でも月10万円超の赤字。これが空白期間の実態だ。
不足分の出所は退職一時金
赤字の補填は、退職時に手にした一時金から充当する。
退職一時金は総額で2,000万円台。退職所得控除をほぼ使い切る形で受け取り、税負担はわずか数万円台で済んだ(詳細は第2回・第5回参照)。
3年間の不足分の累計は、概算で1,000万円前後になる見込みだ。
一時金から補填しても、65歳時点で1,000万円超が手元に残る計算になる。
元本の運用資産には一切手をつけない。あくまで退職一時金の範囲で3年間を乗り越える設計だ。
2027年は「戦略的所得ゼロ」の年
この空白期間には、もう一つ重要な仕掛けがある。
2027年1年間を通じて、課税所得をゼロにする。配当収入は特定口座・源泉徴収ありで申告不要を選択しているため、確定申告しなければ所得としてカウントされない。
これにより2028年度の国民健康保険料が大幅に軽減される(7割軽減等の適用が期待できる)。
仕組みの詳細は第3回(健康保険の選び方)をご覧いただきたいが、要するに「退職後に意図的に所得をゼロにする年をつくることで、翌年の社会保険負担を減らす」という戦略だ。
手元に残った一時金残高、どう扱うか
65歳以降も運用資産の元本は温存する方針だから、一時金残高は「動かせる資金」として残る。
この資金の一部を高配当資産に振り向けることで、65歳以降の配当収入を増やす──というのが基本的な考え方だ。
ただ、「高配当一本」と決め打ちするつもりはない。
相場環境は変わる。高配当が有利な局面もあれば、トレンドを追ったほうが効率的な場面もある。在職中は制約があって動けなかった分、60代のうちは頭も体も動く。状況を見ながら柔軟に対応するほうが長い目で合理的だと思っている。「老後の資産は守るだけ」という発想は、わたしにはまだちょっと早い。
空白期間を怖がらなくていい理由
退職後3年間の赤字は、数字で見るとたしかに厳しい。月30万円超の不足が続くのだから。
ただ、事前に計画書をつくって試算してみると、構造としては十分乗り越えられることがわかった。退職一時金で補填し、65歳以降は年金と配当で家計が成立する。元本は傷まない。
「怖い」のは漠然としているからで、数字に落とせば「こういうことか」と腑に落ちる。早期退職を検討している方には、ぜひ一度、自分版のキャッシュフロー表をつくってみることをお勧めしたい。
次回(第7回)は、65歳以降の年金三階建て──収入の全体像を整理する。
<このシリーズで扱うテーマ>
空白期間を怖がらなくていい理由
退職後3年間の赤字は、数字で見るとたしかに厳しい。月34万円の不足が続くのだから。
ただ、事前に計画書をつくって試算してみると、構造としては十分乗り越えられることがわかった。退職一時金で補填し、65歳以降は年金と配当で家計が成立する。元本は傷まない。
「怖い」のは漠然としているからで、数字に落とせば「こういうことか」と腑に落ちる。早期退職を検討している方には、ぜひ一度、自分版のキャッシュフロー表をつくってみることをお勧めしたい。
次回(第7回)は、65歳以降の年金三階建て──収入の全体像を整理する。
<このシリーズで扱うテーマ>
第1回:定年前に会社を辞めた。──その決断までの話
第2回:退職金の税金──ほぼ無税にできた理由
第3回:健康保険の選び方──任意継続 vs 国保、どちらが安いか
第4回:失業保険と早期退職──就職するつもりがなくても、もらえる。
第5回:企業年金──年金か一時金か、損益分岐点の計算
第6回:65歳までの家計設計──空白期間をどう乗り越えるか
第7回:65歳以降の年金三階建て──収入の全体像を把握する


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