早期退職の損得勘定 第4回

失業保険と早期退職──就職するつもりがなくても、もらえる。


早期退職を決断したとき、失業保険のことをどう考えていたか。

「自己都合退職だから、もらえないんじゃないか」と思っていた人も多いかもしれない。わたしも最初はそんな印象があった。

結論から言うと、自己都合退職でも失業保険は受給できる。ただし、いくつかのルールがある。そして「すぐに働くつもりはないが、制度はきちんと使いたい」という早期退職組にとっては、そのルールへの向き合い方が問われる。

今回はその話を整理する。なおわたし自身はまだ受給手続きを経験していないため、実体験ではなく制度の確認と見通しとして読んでほしい。


まず金額を確認する

失業保険(正式には「雇用保険の基本手当」)の金額は、退職前6ヶ月間の賃金をもとに計算される。

簡単に言うと、賃金日額(直前の給与の日割り)に給付率をかけたものが1日分の手当になる。給付率は年齢と賃金水準によって変わるが、60歳以上の場合はおおむね45〜80%の範囲になる。しかも高給だった人ほど給付率は低く設定される仕組みなので、現役時代の給与が高かったからといって手当も高いとは限らない。

さらに重要なのが上限額の存在だ。どれだけ高給であっても、基本手当日額には年齢ごとに上限が定められており、60歳以上65歳未満の場合は1日あたり7,623円(2025年8月改定後)が上限になる。月30日換算で約22.9万円が受取の天井だ。上限額は毎年8月に見直されるため、受給時期によって変わる点も念のため付記しておく。

給付日数は雇用保険の加入期間によって決まる。10年以上20年未満で120日、20年以上なら150日が上限になる。長年勤めた人なら150日=約5ヶ月分が目安だ。

わたしの場合、給与水準をもとに試算すると受給総額は約110万円(月換算で約22万円×150日)になる計算だ。ざっくり言えば上限近くの水準で計算した結果で、月収がどれほど高くてもこれ以上は出ない。退職直後の収入がほぼ配当だけになる時期に、これが入るかどうかは家計上かなり大きい。


早期退職は「自己都合」扱い──その理由と書面の意味

退職にあたって会社から「退職理由を確認する書面」へのサインを求められた人も多いと思う。わたしもそうだった。これは離職票の発行と深く関係している。

会社は退職者を雇用保険から脱退させる際、ハローワークに離職証明書を提出する義務がある。この書類に離職理由を記載する欄があり、そこに「自己都合退職」と書くためには、退職者本人が自ら退職を申し出たという事実の確認が必要になる。書面はその証跡だ。

早期退職優遇制度に「応募した」という形をとる場合、制度上は自己都合退職として扱われる。会社が全社員に一斉退職を命じたわけでも、個別に退職を勧奨したわけでもなく、あくまで本人が手を挙げた──という建付けだからだ。退職金の割増や加算金がある分、条件面では優遇されているが、離職理由の区分は「自己都合」になる。

これは不当な扱いではなく、制度の仕組みとして理解しておけばいい。自己都合退職でも失業保険は受給できる。給付日数や給付制限の面では会社都合より不利ではあるが、早期退職を選んだメリット(退職金の加算など)との引き換えだと割り切るしかない。


自己都合退職の「給付制限」が短くなった

ここは要注意の変更点がある。

自己都合退職の場合、ハローワークで手続きをしてから7日間の「待機期間」があり、さらにその後「給付制限期間」が設けられる。この給付制限中は手当が支給されない。

この給付制限が、2025年4月の法改正で2ヶ月から1ヶ月に短縮された。

2026年6月末に退職する場合、ハローワーク手続き→待機7日→給付制限1ヶ月という流れを経て、受給開始は早ければ退職から約2ヶ月弱になる。旧制度より約1ヶ月早まった計算だ。制度改正を知らないまま計画を立てていた人は、キャッシュフローを見直す価値がある。

なお、給付制限期間中も求職活動実績を積む必要があることは変わらない。


受給中のルール──何が制約になるか

受給中に守らなければならないことを整理しておく。

認定日にハローワークへ行く

4週間に1度、担当ハローワークの指定する「認定日」に来所して、失業状態であることを申告する。これをパスすると、その期間分の手当は出ない。来所は現状では原則必要で、省略はできない。(2025年以降、オンライン認定の拡充が検討されているが、2026年時点でどこまで普及しているかは管轄ハローワークに確認が必要だ。)

4週間に2回以上の求職活動実績を作る

これが一番の関門になる人が多い。詳しくは次の節で。

配当収入・投資収入は申告不要・減額なし

これは多くの早期退職者にとって重要なポイントだ。株式や投資信託からの配当・分配金は「完全な不労収入」として扱われ、ハローワークへの申告義務もなく、手当の減額にも影響しない。配当を受け取りながら失業保険も受給する、という組み合わせは制度上まったく問題ない。

アルバイトは原則申告が必要

就労の意思と能力がある状態であれば、週20時間未満のアルバイトは可能だが、認定日ごとに正確に申告する必要がある。申告漏れは不正受給になる。


就職するつもりがない人の立ち回り

ここが、早期退職組の多くが内心気にしているところではないだろうか。

制度の建前は「就職の意思と能力がある人への給付」だ。求職活動実績も、その証明として求められる。「完全にもう働く気はない」という状態は、制度上の受給要件を満たさない。

ただ現実には、「今すぐ就職するつもりではないが、条件が合えば考えなくはない」という姿勢は、とくに60代前半の早期退職者には珍しくない。長年の経験を活かせる場があれば相談くらいはする、という程度の気持ちは、嘘とも言い切れない。そのくらいのスタンスで制度に向き合っている人は多いと思う。

わたし自身、この点については「絶対に働かない」と言い切れる自信はないし、もし面白い話があれば耳を傾けるかもしれない。そういう意味では、求職活動の場に出てみること自体は、決して形式だけの話でもない気がしている。


求職活動実績の作り方──「求人サイト登録だけ」はNG

「転職サイトに登録しておけばいい」と聞いたことがある人もいると思う。残念ながら、登録だけでは実績として認められない。

実績として認められる活動には明確な基準がある。主なものを挙げると、

  • ハローワークでの職業相談(応募しなくてもOK)
  • 求人サイト・転職エージェント経由での求人への応募
  • ハローワーク主催または民間機関のセミナー・講習への参加
  • 国家試験・検定試験の受験

「見るだけ」「登録するだけ」は客観的な証拠が残らないため、認められない。

最もラクな組み合わせを考えると、こうなる。

認定日当日にハローワークへ行き、窓口で数分間の職業相談をする。これで1回分の実績になる。もう1回は、求人サイトで自分に合いそうな求人を1件探して応募ボタンを押す。これで4週間分の実績が足りる。

応募したからといって必ず選考を受けなければならないわけではないし、選考を辞退することも可能だ。ただし、完全に架空の活動や虚偽申告は不正受給になるため、形式だけでも実際に手を動かすことが前提になる。

認定日のハローワーク来所が億劫に感じる人もいるかもしれない。正直なところ、月1回程度の訪問と数回の求職活動で約110万円が入るなら、費用対効果はかなり高い。


わたしの計画での位置づけ

退職後のキャッシュフローを整理すると、受給期間中(2026年10〜2027年3月の予定)は配当約9万円+失業保険約22万円で月31万円の収入となる見込みだ。月の支出(家賃・生活費・健康保険・住民税)は43万円程度なので、不足は月12万円台まで圧縮できる。

受給がなければこの12万円も退職一時金から補填するだけなので「損はしない」のだが、受給することで一時金の取り崩しペースが落ちる。半年間で受給総額は約110万円。退職後の空白期間3年強を考えると、これは実質的にかなりの意味を持つ。

なお、失業保険は非課税所得のため確定申告の必要はない。翌年の国保料にも算入されない。「戦略的所得ゼロ」の方針(第3回で述べた)と相性がいい点も付記しておく。


まとめ

  • 自己都合退職でも失業保険は受給できる
  • 2025年4月の法改正で給付制限が1ヶ月に短縮された
  • 認定日(4週に1度)のハローワーク来所は原則必要
  • 求職活動実績は4週間に2回以上必要。登録だけではなく「相談」か「応募」が必要
  • 配当・投資収入は申告不要、手当に影響なし
  • 就職するつもりがない場合でも、形式だけでなく「条件が合えば」という姿勢で向き合うのが現実的なスタンス

次回(第5回)は、企業年金の年金か一時金かという選択と、損益分岐点の計算について。ここは退職前に必ず検討しておきたい話だ。


<このシリーズで扱うテーマ>

第1回:定年前に会社を辞めた。──その決断までの話

第2回:退職金の税金──ほぼ無税にできた理由

第3回:健康保険の選び方──任意継続 vs 国保、どちらが安いか

第4回:失業保険と早期退職──就職するつもりがなくても、もらえる。

第5回:企業年金──年金か一時金か、損益分岐点の計算

第6回:65歳までの家計設計──空白期間をどう乗り越えるか

第7回:65歳以降の年金三階建て──収入の全体像を把握する

コメント

タイトルとURLをコピーしました