早期退職の損得勘定 第2回 

退職金の税金──ほぼ無税にできた理由


退職が近づくと、誰もが一度は考える。

「退職金って、税金どのくらいかかるんだろう」

答えを先に言ってしまうと、私の場合、数千万円規模の退職金等を受け取って、税負担は数万円台だった。

「そんなことあるの?」と思うかもしれないが、節税テクニックでも裏技でもない。制度を正しく理解して、受け取り方を設計しただけだ。

今回はその仕組みを、できるだけわかりやすく書いてみたい。


退職金に税金がかかる仕組みを、まず整理する

退職金は、給与とは別の「退職所得」として課税される。ここが出発点だ。

計算の流れはこうなる。

課税退職所得 =(退職金等の合計額 − 退職所得控除額)÷ 2

ポイントは2つ。

①「退職所得控除」という大きな非課税枠がある ②控除を引いた残りをさらに2分の1にしてから課税する

この二重の優遇があるため、退職金は他の所得に比べて圧倒的に税負担が軽くなる設計になっている。


退職所得控除の計算式

控除額は勤続年数によって決まる。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)

勤続年数が長いほど、控除額は大きく膨らむ。

たとえば勤続40年なら、800万円+70万円×20年=2,200万円。 勤続41年なら、800万円+70万円×21年=2,270万円

「2,000万円以上、非課税」という話である。

長く働いた人ほど優遇される、珍しく報われる税制だと思う。


「退職金」と思っていないお金も、控除の対象になる

ここが今回、最も伝えたいポイントだ。

「退職金」と聞くと、会社からもらう一時金だけをイメージする人が多い。だが実際には、退職のタイミングで受け取るお金にはいくつかの種類があり、それらを合算した総額と控除枠を比較するのが正しい計算の手順だ。

主なものを整理するとこうなる。

受取の種類概要注意点
会社からの退職一時金いわゆる「退職金」本体最もわかりやすい
早期退職の上積み金早期優遇制度による加算退職一時金と合算される
確定拠出年金(DC)の一時金60歳以降に一時金で受け取る場合退職一時金と同様に退職所得として合算される
企業年金の一時金年金か一時金かを選べる場合の一時金受取年金選択なら退職所得の合算対象外

会社からの退職一時金だけでなく、早期退職の加算金・DCの一時金・企業年金の一時金、これらすべてを足した金額が「退職所得の計算対象」になる

知らずに受け取ると、DCや企業年金の一時金が積み上がって控除枠をオーバーし、思わぬ税負担が発生する。逆に言えば、合算後の総額が控除枠に収まるよう設計できれば、税負担を最小化できる


私の場合、合計額と控除枠がほぼ一致した

私の場合、上記のような複数の受取を合算した総額が、勤続年数から算出した退職所得控除額とほぼ一致する結果になった。

一時金等の合計額 − 退職所得控除額 = ごくわずか
→ 課税退職所得 = さらにその1/2
→ 税負担:数万円台

2,000万円以上を受け取って、税金が数万円台。

「そんな制度があるなら、もっと早く知りたかった」という感想を持つ方もいるかもしれない。だが、これは何か特別なことをしたわけではない。仕組みを理解した上で、受け取り方を事前に設計しただけだ。


企業年金は「年金か一時金か」で税負担が激変する

ここで一つ、見落としがちな落とし穴がある。

企業年金を一時金で受け取ると、退職所得として合算対象になる。これが大きな金額になると、控除枠を超えた部分に高い税率がかかる。

一方、年金方式を選べば退職所得の合算対象から外れる。毎年の受取額が「雑所得」として扱われるため、退職時の税負担を大幅に抑えられる。

ただし、「年金方式=得」と単純に言い切れないのがこの話の難しいところだ。

年金方式で受け取る企業年金は、毎年の雑所得として所得税・住民税がかかる。さらに、公的年金(厚生年金)と合算した年間収入の総額によっては、健康保険料や介護保険料の算定にも影響する。

「退職所得として一括で税を払うか、毎年の雑所得として少しずつ払うか」という問題であり、自分の年金収入の全体像を見てから判断する必要がある。また、何歳まで生きれば年金方式が得になるか、という損益分岐点の計算も欠かせない。

この点は第5回(企業年金──年金か一時金か、損益分岐点の計算)で改めて詳しく掘り下げるつもりだ。


退職前にやっておくべきこと

まとめとして、退職を数年以内に考えている方にやってほしいことを挙げておく。

① 自分の控除額を計算する 勤続年数を確認して、退職所得控除額を算出する。転職歴がある場合は通算の計算方法に注意が必要だ。

② 「退職金相当」を全部リストアップする 会社の退職一時金だけでなく、DC残高・企業年金の一時金額・早期退職加算があれば、その金額も含めてすべて把握する。

③ 合計額と控除枠を比較して、年金・一時金の選択を逆算する 合計が控除枠に収まるなら一時金で受け取れる。超えるなら、どれかを年金方式にすることで退職所得を圧縮できる。

知っているかどうかだけで、手取りが数百万円変わる可能性がある話だ。退職前に一度しっかり計算しておくことをお勧めしたい。


次回:健康保険の選び方

退職後、すぐ直面するのが健康保険の問題だ。

会社員を辞めると、これまで当たり前のように使っていた健康保険が使えなくなる。選択肢は大きく2つ。「任意継続」か「国民健康保険」か。どちらが安いかは、退職前の年収と退職後の収入によって変わる。

第3回では、この選択の考え方と、私が実際にどう判断したかを書く。

<このシリーズで扱うテーマ>

  • 第1回:定年前に会社をやめた──その決断までの話
  • 第2回:退職金の税金──ほぼ無税にできた理由
  • 第3回:健康保険の選び方──任意継続 vs 国保、どちらが安いか
  • 第4回:失業保険と早期退職──使える?使えない?
  • 第5回:企業年金──年金か一時金か、損益分岐点の計算
  • 第6回:65歳までの家計設計──空白期間をどう乗り越えるか
  • 第7回:65歳以降の年金三階建て──収入の全体像を把握する

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